交通事故を起こし加害者になってしまった時、事故の状況や加入していた保険の内容によっては、高額な損害賠償金を背負ってしまうことがあります。
場合によっては、とうてい支払いできる見込みのないような莫大な金額になることもあります。
このような交通事故による損害賠償金を背負った状態で債務整理をしたら、この損害賠償金はどうなるのでしょうか?
民事再生や自己破産の場合、交通事故による損害賠償金も、減額や免責の対象となるケースがあります。
今回は、債務整理をしたときに、交通事故の損害賠償や慰謝料はどうなるのか?という疑問について解説していきます。
目次
任意保険に加入していないと、損害賠償金は自己負担
交通事故を起こし加害者となったとき、状況によっては損害賠償金や慰謝料を支払わなければなりません。
車を保有するときには、法律で自賠責保険への加入が義務付けられています。
しかし、自賠責保険の補償範囲は最低限のものであるため、それにプラスして任意保険に加入するのが通常です。
自賠責保険でカバーできない範囲を任意保険で補うためですが、万が一任意保険に加入していない場合は、被害者から損害賠償請求を受け、本人が負担することになります。
事故の状況によっては大変高額になることもあり、相当な負担を抱える可能性があります。
交通事故の損害賠償金は、債務整理で負担を軽くすることができるか?
債務整理をすれば、一般的な借金などの債務の減額や免責が可能です。
それでは、交通事故による損害賠償金も支払いの免除や減額を受けることはできるのでしょうか?
事故の状況にもよりますが、支払い免除や減額を受けることは可能なケースがあります。
非減免債権、非免責債権
通常、民事再生、自己破産では、債務整理する債権を選ぶことができず全ての債権を一括で整理しなければなりません。
しかし、その中で「非減免債権」「非免責債権」にあたるものは、減額、免責が受けられないという決まりがあります。
これらの債権に当てはまるものに、以下のようなものが挙げられます。
- ①悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- ②故意又は重過失により加えた人の生命身体を害する不法行為に基づく損害賠償権
- ③養育者又は扶養義務者として負担する費用に関する債権に基づく損害賠償請求権
交通事故においては、①と②が関係してしてきますが、①の場合、悪意を持って交通事故を起こすということは考えにくいでしょう。
問題は②の場合です。
この難しい文章の中には、2つのポイントがあります。
- ①加害者に故意や重大な過失がある
- ②相手の生命や身体を害する不法行為
この2つの要件に当てはまる場合の損害賠償請求権のことを指しています。
言い換えると、「重大な過失のある人身事故に対する損害賠償請求権」となります。
「加害者に重大な過失のあった人身事故」に対する損害賠償金の支払いは、減額、免責することはできません。
なお、債務整理をしても減額や免責の対象とならないものには、このほかにも、税金、健康保険料、年金保険料や罰金などの一般優先債権と呼ばれるものがあります。
重大な過失とは?
それでは、上記①の重大な過失とは、どのようなことでしょうか?
一般的には、「わずかな注意があれば回避できたはずなのに、注意力が欠落していた場合」「悪意または故意に匹敵する過失」をいいます。
例えば、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、30キロ以上の速度違反などが挙げられます。
見てわかるように、これらは交通ルール違反としてはかなり特殊なケースといえるでしょう。
例えば単なるわき見運転や前方不注意などでは、重大な過失とは判断されません。
このようなことから、民事裁判上で「重大な過失があった」と、簡単には判断されないようです。
ということは、損害賠償金が減額、免責となるケースも多くはないのですが、最終的には個々の事例を裁判官が判断するため、その時にならないと結果はわからないものです。
わき見運転、携帯電話等の通話運転、酒気帯び運転など、重大な過失とも軽過失とも成り得るケース、さらに過失割合なども含め、総合的視点から判断されるでしょう。
非減免債権、非免責債権かどうかの判断は、裁判で決める
どんなケースが非減免債権、非免責債権になるかはわかりました。
しかし、実は民事再生や自己破産の手続き中には、非減免債権、非免責債権にあたるかどうかは判断されません。
あくまでも「個人再生での減額や自己破産での免責の許可を与えるかどうか」だけを決定します。
この時、「交通事故を起こし重大な過失があったかどうか?」という点が、民事再生の再生計画認可や、自己破産の免責許可決定自体に影響を与えることはありません。
ということは、減額や免責の許可がおりると、一旦は交通事故による損害賠償金も減額、免責の対象となるということです。
しかし、被害者側からすると、加害者が自己破産をしたからと言って損害賠償金の減額や免責をされることには納得のいかない場合が多く、差し押さえや訴訟を起こしてくることが考えられます。
この段階で「非減免債権、非免責債権にあたるかどうか」の判断について別の裁判にて争うことになります。そして、「重大な過失があった」と判断されたときには、「非減免(免責)債権」となり、支払いを続けることになります。
減額、免責になる可能性がある損害賠償金
これまでの解説で、「重大な過失のある人身事故」を起こしたと判断された場合には、債務整理をしてもその交通事故の損害賠償金の支払いは免除されないことがわかりました。
それでは、実際に減額、免責とすることができる損害賠償金はあるのでしょうか?
重大な過失ではない人身事故の場合
重大な過失のある人身事故を起こした場合は、その交通事故に係る損害賠償金の減額、免責はありません。
言い換えると、同じ人身事故でも「重大な過失ではない場合」には減額、免責が行われるということです。
「重大な過失ではない」と言葉で聞くととても曖昧なところがあります。
その判断方法の目安として考えられるものが、警察による「安全運転義務違反の認定」です。
これは同じ人身事故を起こした場合でも、加害者の過失が軽い場合や被害者の過失が大きい場合などに、刑事処分上不起訴になり、安全運転義務違反だけが加点されるというものです。
例えば、前方不注意やハンドルの操作ミス、左右の不確認などで相手に軽いけがを負わせてしまった時などは、安全運転義務違反が認定され、不起訴となることが多いです。
このような場合には、民事上も軽過失の範囲内と判断され、その交通事故の損害賠償金の支払いは減額、免責となる可能性が高いです。
物損事故
交通事故の損害賠償金請求は、人身事故を起こした時だけではありません。
物損事故でも損害賠償金の支払いが発生してきます。
例えば、事故で相手の車を傷つけて修理代を請求されている場合などが考えられますが、このような物損事故は、「生命、人体を害する不法行為」ではないため、非減免債権、非免責債権に当てはまりません。
つまり、物損の場合はその交通事故に係る損害賠償金の減額、免責が可能となります。
たとえ高級車を傷つけて高額な修理代がかかったとしても、物損の損害賠償金の支払いは非減免(免責)債権となるので、被害者の自己負担となってしまいます。
刑事処分上の罰金は免責されない
交通事故を起こして加害者となると、検察に起訴されて罰金が科せられることがあります。
この罰金刑は、民事再生や自己破産などの債務整理をしても、減額、免責とはなりません。
刑事罰の支払いは、過失の重大さに関係なく非免責債権となる決まりがあります。
まとめ
今回は、債務整理をすると交通事故の損害賠償金や慰謝料はどうなるか?という疑問について解説してきました。
ポイントをまとめると下記のようになります。
- ①交通事故の損害賠償金の減額・免責は、加害者の過失の度合いによる。
- ②重大な過失による人身事故の場合は、減額・免責されない可能性がある。
- ③過失が軽い場合や、相手側の過失割合が大きい場合には、減額・免責されることが多い。
- ④物損事故の場合は、減額、免責となる。
交通事故の損害は幅広く、車が破損すれば修理代がかかり、けがをすれば通院・入院費がかかります。加えて通院にかかる交通費なども発生してきます。
大きな事故になり後遺障害が残れば後遺障害慰謝料、万が一死亡事故ともなれば、死亡慰謝料や葬儀費用なども損害賠償として請求され、大変高額になることは目に見えています。
任意保険に加入していないとこれらの支払いは加害者本人の責任となり、大変な負担を抱えることになることを頭に入れておきましょう。
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